この疑問に答えるため、Chaserはすでに名前を知っている3つの物体——「Lips」「ABC」「Lamb」——と、3つの指示語——くわえる・前足で触る・鼻で触る——を、ランダムに組み合わせたテストを受けました。9通りの組み合わせのうち、事前に訓練したものは一つもありません。しかも訓練者からChaserの様子が見えない、二重盲検の条件です。
Plate 2Border's Digest 作表 — Pilley & Reid, 2011の実験設計をもとに
指示語×物体名、14試行の結果
註 9通りの組み合わせから計14試行を実施(一部の組み合わせは複数回登場)。事前に訓練していないにもかかわらず、初回から100%正答(偶然の確率 P=4.37×10⁻¹⁴)。
物体名と指示語を独立した部品として扱い、初めての組み合わせにもすぐ正しく応じる——これは「sock」を丸ごと一つの命令として覚えていた、という説明では成り立ちません。
さらに踏み込んだ実験もあります。8個の「ボール」と8個のボールじゃないおもちゃ、合計16個の物体を部屋にランダムに配置し、訓練者が隣室から「ボールを持ってきて」「別のボールを持ってきて」と指示を出す——Chaserが典型例だけを連続して選べるかを見るテストです。「フリスビー」「トイ(おもちゃ)」でも同様に実施しました。
結果は3カテゴリーすべてで8回連続無失敗(各カテゴリーで偶然にこの結果が出る確率はP=7.77×10⁻⁵)。「ボール」は丸い、「フリスビー」は円盤形——ここまでは見た目の共通点でまとめられるカテゴリーです。ですが「トイ」はそうはいきません。形も大きさも素材もばらばらな物体を、「遊べるもの」という機能だけでひとまとめにする、一段抽象的な概念化が必要です。Chaserはこの「トイ」というカテゴリーも学習し、1つの物体に固有名・「トイ」・「ボール」(または「フリスビー」)という最大3つのラベルを同時に持たせることができました。
1,022語の記憶、指示語と名前の組み合わせ、トイという抽象的なカテゴリー、そして除外学習——四つの実験を総合すると、論文の結論ははっきりしていました。名前は、物体に向けた行動とは切り離して、物体そのものを指し示すことができる。Chaserがこれを理解していたことは「説得力のある証拠」によって示された、と著者らは述べています。
この結論は、当時の犬の認知科学を根底から揺さぶるには十分でした。「犬は条件付けで動いているだけ」という前提が、大きく揺らいだのです。